そこのあなたにむけて
去年の1月26日。
寒かったけど天気が良くてお散歩日和だった。
街中は、男だったり、女だったり、子供だったり、お年寄りだったり、犬だったり。
みんながみんな好きなそれと一緒にいた。
肌を寄せ合い、幸せそうに笑っていた。
一人で散歩をしていたわたしは
家の近くのホームセンターに行った。
ホームセンターは暖房が効いてて暖かかった。
寧ろ気持ち悪いくらい暑かった。
気分が悪くなりすぐに店を出たかったわたしは店員に欲していたものを聞いた。
欲していたものを手に取りレジへ向かいお金を払って外に出た。
風は刺さるように冷たかったけど、周りの人間の幸せの温かさに嫌悪感を覚え、気持ち悪さはなくならなかった。
その後、近くのバラエティショップに足を運んだ。
店内は明るいBGMが流れ、たくさんの人がバレンタインデーのグッズを買ったりと買い物を楽しんでいた。
そんな中、わたしは見渡した中で一番高い筆ペンと便箋を購入しバレンタインデーグッズには目もくれず家に帰宅した。
家には誰もいなかったため寒かった。
部屋の暖房をつけ、さっき買ったペンと便箋を取り出した。
「遺書」
死のうと思った。
もう無理だと思った。
父親も中学の担任も昔の同級生もあいつもこいつもみんな嫌いだった。
恨んでるやつが多すぎた。
憎いやつが多すぎた。
外で幸せそうにしてた奴らでさえ嫌悪感を抱くほどに。
羨み、妬み、死んで欲しいと思った。
ただわたしは死にたいわけではなかった。
この現状から逃げたいと思った。
幸せになら生きたいと思っていたし痛いのは嫌だし怖い。
死ぬなんて考えずに、殺したいなんて考えずに、自己嫌悪で毎晩吐かずに生きていけるなら生きていきたかった。
色々なことを思っていたが、のうのうと難しいことを考えずに生きていくのはわたしにはどうしても出来なかったので死ぬことを決意した。
どうせもうお金使わないしなと買った高級なペンと便箋で遺書を書き終えた。
今見るとしょうもない内容しか書いてなかった。
遺書でさえ自分を良く見せようとして猫を被って書いていたのがウケる。
ポケットからスマホを取り出し「首吊り 結び方」で検索をかけた。
検索をすると1番上に「困ったらここへ」と相談窓口の電話番号が記載されていた。
どうせ何も理解してくれないくせに余計なお世話だなぁと嘲笑した。
ホームセンターで買ったロープを取り出し、サイトを見ながら結んだ。
その後、椅子を用意し、親の帰宅する時間をもう一度見て、頸動脈の位置を手で触り確認した。
準備は万端だった。
机の上に置いた遺書が暖房の風で遠くに飛んで行った。
死ぬなと警告しているのかもしれないとほんの少し戸惑ったけれど、わたしは暖房を消し遺書を机の上に戻し椅子に登った。
もうめちゃくちゃに怖かった。
痛いのも死ぬのももうよくわかんないけどとりあえず怖かった。
自ら首を吊ろうとしているのに嫌で不快でたまらなかった。
こんなはずじゃなかったと馬鹿みたいに泣いた。
人は限界が来ると泣くことさえ出来なくなるなんて嘘だ。そんなの人によるに決まってる。
声が出るからタオルを口に含む。
タオルを噛み締めながら
椅子を涙で濡らしながら
時計の秒針の音を聴きながら
今までの人生を振り返りながら
やっぱり最悪だったなぁと思いながら
その一本のロープを手で掴む。
震える手で首をかける。
椅子を蹴る。
飛ぶ。
起きたら病院だった。
救命救急センターに運ばれた。
親に怒られたりクラスメイトを泣かせたり幼なじみに抱き締められたりした。
正直その辺の記憶はあやふやだ。
死ぬ前の記憶もあんまりない。
ただひたすらにめちゃくちゃに怖くて苦しかった記憶だけある。
二度とあんなことしたくない。
わたしがここで一番に言いたいのは死ぬ気がない人間は死ぬなってことだ。
本当に死にたいのであれば死ねばいいと思う。
それを「大丈夫だよ何とかなるから!」と止めるのは傲慢であり無責任であると思う。
お前がその人の全ての悩みを解決してくれて幸せにしてくれるのでない限り。
ただ死ぬ気がなくてただただ逃げたいと思っていたり幸せになりたいと思っている人間は死ぬべきではないと思う。
死の恐怖に打ち勝てないのであれば死ぬべきではない。
うんと遠くに逃げればいい。
いじめられているのであれば学校や職場を辞めればいい。
父親から暴力を振るわれているのであれば縁を切って好きな人と暮らせばいい。
逃げ道はたくさんあるのだ。
世間体的に無理だと思うかもしれないが死ぬよりはずっとマシだ。
そもそも逃げようと死のうと考えている人間は周りの目なんて考えるな。
こんなクソみたいな世の中は自ら捨てればいい。
親からDVを受けていたのが原因で家族と縁を切り、とある島に逃げ移住した知り合いがいる。
そこで仕事を見つけて彼女も作っていた。
ついこの前そいつから「結婚しました」と書かれた葉書が家に届いた。
今までに見たことがないくらい笑顔で写ってる幸せそうな写真を見て人生なんとかなるもんだと号泣した。
あなたの苦しみはわたしには分からないし誰にも分からない。
だけどもしまだ少しでも希望を持っているのであればどうか生きて欲しい。
強くなくても、頑張れなくてもわたしは許すし自分で自分のことを許してしまえばいい。
結局わたしも無責任なことを言ってるね。
ただ、あなたは生きているだけで本当にそれだけでそれだけでいいんだよ。
この先、死んでしまおうと思うくらいに苦しいできごとが、わたしにもあなたにもありませんように。
それだけを願って。